国際会議開催報告
- 第21 回国際シロイヌナズナ研究会議 -
21st International Conference on Arabidopsis Research (ICAR2010)
理化学研究所 バイオリソースセンター 実験植物開発室長 小林 正智
国際シロイヌナズナ研究会議(ICAR)と日本での開催について
20世紀後半より国際連携のもと、シロイヌナズナ研究は大きく発展してきました。その原動力となった組織が国際シロイヌナズナ研究推進委員会(MASC)であり、MASCの主催により最新の研究成果発表が行なわれるICARは、シロイヌナズナの研究者コミュニティとともに拡大を続けてきました。
1965年に第1回のICAR がドイツで開催されたと記録されています。そして1990年代に入り、国際コンソーシアムによるシロイヌナズナのゲノム解析が開始されて以降、ICARは研究発表と交流の場として欧米諸国の持ち回りで、ほぼ毎年開催されるようになりました。そして2000年代に入り、シロイヌナズナ研究が世界に広まったことから、本会議も欧米にアジア・オセアニア地区を加えた3地区のローテーションで開催することになりました。このたび横浜市で開かれた「ICAR2010」はアジア地区で2回目、我が国では初の開催となります。開催準備委員会には、理研を中心に研究機関や大学からの委員も加わり、研究コミュニティをあげての準備となりました。 |
写真 1: "2010 and beyond"をテーマに開催されたICAR2010 |
折しも今年は、2001年から開始された "Arabidopsis 2010 Project" の最終年にあたります。本プロジェクトでは、シロイヌナズナの全遺伝子に機能の注釈をつけることを目標に、国際協力のもとでリソースや情報の整備が行われてきました。多くの成果をあげた本プロジェクトですが、遺伝子機能解析を目標としたシロイヌナズナのポストゲノム研究はこれで一区切りになる見込みです。そして次の10年は、non-coding RNAやepigeneticsなどシロイヌナズナの豊富なゲノム情報を活用した最先端の研究とともに、シロイヌナズナ研究から応用研究への成果の受け渡しが課題になると考えられています。そこで開催準備委員会では、"2010 and beyond"をテーマとして応用研究分野からも演者を招待し、広く植物研究コミュニティ間の交流を図る企画としました(写真1)。
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6月6日より10日までパシフィコ横浜を会場として開催した「ICAR2010」には、日本を含む世界32カ国より1,305名の研究者が参加し、歴代2位の規模に達しました(写真2)。
写真 2: メインホールで開催された6月7日のPlenary session
招待講演やポスター発表を含む演題総数は900を超え、システム生物学から作物ゲノム研究まで幅広い研究領域での発表が行なわれました。また特別企画として開催されたNSFの "2010 and beyond" セッションでは研究コミュニティの将来についての討論が行われました。そしてセッションの合間にも、多くの参加者がコーヒーを片手に議論の輪をつくるなど、盛況な会議でした(写真3)。
写真3: 休憩時間にロビーで議論する参加者 |
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今回の会議で特筆すべきイベントとしては、シロイヌナズナ研究者と作物研究者との情報交換の場としてNBRPの植物リソース、情報、事務局による特別展示企画を開催したことがあげられます。ポスターセッションが行われた7日と8日には参加者が次々にブースを訪れていました(写真4)。このほか、SSH特別ポスター発表企画(スーパーサイエンスハイスクールの高校生による英語でのポスター発表)、市民公開講座なども行なわれ、密度の濃い、充実した5日間でした。
写真 4: NBRPの展示ブースで説明を受ける参加者 |
植物研究の未来に向けて
既にふれたように、世界のシロイヌナズナ研究は節目を迎えています。次の10年は、これまでに蓄積されたリソース、技術、情報を作物や樹木の研究にどのように活用してゆくかが焦点となります。我が国で開催された「ICAR2010」を契機として、基礎と応用、モデルと作物などコミュニティ間の垣根を超えて、研究者の交流がいっそう深まることを期待しています。■ |