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  January 2010
Vol.6 No.1
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研究とバイオリソース〈NO.8〉
洪水に適応したイネの分子メカニズム
芦苅 基行
(名古屋大学生物機能開発利用研究センター)

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じょうほう通信 〈No.47〉
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研究とバイオリソース No.8

洪水に適応したイネの分子メカニズム

名古屋大学生物機能開発利用研究センター 教授  芦苅基行

東南アジア、西アフリカ、南米アマゾン川流域では雨季に河川が氾濫し毎年大規模かつ長期間に渡る大洪水が発生します。この洪水という過酷な環境下では多くの植物は生育することが出来ません。移動することの出来ない植物が、過酷な環境に適応するにはその環境を克服する何らかの新しい機能を獲得しなければなりませんが、東南アジア、西アフリカ、南米アマゾン川流域には、この洪水という非常に厳しい環境を克服した浮イネと呼ばれるイネがあります。

通常のイネ(1m程度)は水没すると呼吸が出来ず溺死します。一方、浮イネは一般的なイネの栽培条件である浅水の環境では、通常のイネと変わらず1m程度の草丈を示しますが、洪水などの急激な水位の上昇が起こると、直ちに草丈の伸長(節間伸長)を行い、葉を水面に出すことで呼吸を確保し水没することなく生存できるのです(イネの茎は空洞で、水遊びに使用するスノーケルのような役目をしているのです)(図1)。

図1
図1

浮イネの洪水に対する回避能力、つまり深水による伸長能力は著しく、水位の上昇を感知し、急激に草丈を伸長させます(図2)。中には、ビル3階の高さ(約10m)以上の深水でも生存できるものもあります。このように、浮イネは洪水に対して、驚異的なスピードで草丈を伸長し、呼吸を確保するという戦略を獲得し、進化した結果、洪水という環境変化を克服したわけです。 急激な環境変化に伴い、生植物がこれほどまでに大きさを変化させる例は、あまり無いかもしれません。私たちの研究グループでは、この浮きイネがもつ深水依存的な節間伸長メカニズムを明らかにするため、この形質を支配する遺伝子の同定を試みました。

図2  
図2

浮イネの深水条件下での節間伸長に関与する遺伝子を単離する第一歩として、まず、浮イネ性に関与する遺伝解析を行い、深水依存的に節間伸長を促進する遺伝子領域を、第1,3,12染色体上に検出しました。検出された3つの遺伝子領域に関して、それぞれ準同質遺伝子系統を作出して深水処理を行った結果、全ての準同質遺伝子系統が節間伸長を示したことから、検出された3つの遺伝子領域は節間伸長を誘導する作用を持つことが確認されました。また、検出された3つの遺伝子領域のうち、第12染色体に座乗する遺伝子領域が最も強い作用を持つという結果が得られたため、第12染色体遺伝子領域に関するマッピングを行いました。マッピングの結果、第12染色体遺伝子領域にはSNORKEL1およびSNORKEL2という2つの遺伝子が存在することが明らかとなりました 。SNORKEL1およびSNORKEL2は、通常の栽培条件下(浅水条件下)ではほとんど発現がみられませんが、深水条件下では著しくその発現が誘導されます。さらに、SNORKEL1およびSNORKEL2は浮イネ特異的な遺伝子であり、T65や日本晴などの非浮イネ(栽培イネ)は保持していないことも明らかとなりました。また、非浮イネであるT65にSNORKEL1 および SNORKEL2 を導入した、形質転換体を作出したところ、深水条件下で 節間伸長を示しました。さらに、SNORKEL 遺伝子を非浮イネで過剰発現させると浅水条件下でも節間伸長を誘導しました。以上の結果から、SNORKEL1 および SNORKEL2 は浮イネ性を付与する遺伝子であると結論を出しました。

単離したSNORKEL 遺伝子について遺伝子構造を解析すると、内部に核移行シグナルと1つの AP2/ERF ドメインをもつことが明らかとなりました。 AP2/ERF ドメインをもつ遺伝子は転写因子であると考えられており、SNORKEL 遺伝子はそのアミノ酸配列や数によってエチレン応答性をもつ ERF型の転写因子(ethylene response factors: ERFs)であると推測されました。 実際、エチレンや GA(ジベレリン),ABA(アブシシン酸),オーキシン,サイトカイニンなどの植物ホルモンを処理した場合、エチレン処理においてのみSNORKEL 遺伝子の発現が著しく誘導されるということから確認されました。次に、ERFs のプロモータに結合するエチレンシグナル伝達上の因子である EIN3(ETHYLENE INSENSITIVE3) と SNORKEL遺伝子のプロモータ領域に関して結合アッセイを行うと、両者での結合が観察されたことから、 SNORKEL 遺伝子はエチレンシグナル伝達上で働く因子であることが、示唆されました。

我々が食べている通常のイネは約8,000年の年月をかけて、ある野生のイネから栽培化されたと、考えられています。この野生のイネの遺伝子を調べてみると、SNORKEL1 およびSNORKEL2 の遺伝子を保持していました。つまり、イネはもともと洪水に対応できる植物だったと考えられます。

snorkel

洪水が多発する場所で栽培化されたイネは浮イネ性を保持していますが、多くの栽培品種はこれらの遺伝子を保持していません。おそらく洪水のあまり起こらない場所で栽培されるようになったイネは、これらの遺伝子を保持する必要がなくなったと考えられます。また、この遺伝子を保持したイネは、通常の栽培条件でも収穫時に背が高くなり、風雨で倒伏しやすいようです。人間が栽培するに不適切な表現型を示すので、積極的に除かれたのかもしれません。

東南アジアのデルタ地帯では、毎年、雨期に洪水が発生し水位が数メートルに達します。この地域の人々は、この洪水期に浮イネを栽培します。洪水下で唯一収穫できる穀物だからです。しかし、浮イネは収量が非常に低いことが知られています。現在は、洪水に対応したイネ品種育成が進んでおらず、収量の高い浮イネ品種の作出が望まれています。これまでに我々は、染色体の3カ所がこの浮イネ性を制御していること明らかにし、この3つの染色体断片を、交配によって日本の栽培イネに導入しました。すると日本の通常の栽培イネが深水で伸長を始めたのです。この成果は、通常のイネにこの3カ所の染色体断片を導入すると、浮イネに変換することができるということです。我々はこれまでに、収量を高くする遺伝子も同定しており、浮イネの遺伝子、収量の遺伝子を組み合わせることで、より良い浮イネ品種の育成ができると信じています。実際に東南アジアの洪水地帯に対応した、イネ品種の育成を行っています。■


じょうほう通信 No.47

海外での日本語入力サポート

仕事や学会などのために海外に行った時に、パソコンで日本語のメールを出したり、検索サイトにおいて日本語のキーワードで調べたりしたいことがあると思います。その時に自分用のノートパソコンを所持していれば何の問題もないと思いますが、そうでない場合、自分の傍に日本語の入力ができず、アルファベットしか入力できないパソコンしかないことも十分に考えられます。もしそのような状況に陥ったら、あなたはどのように対処しますか? 頑張ってローマ字で日本語を書きますか? ( Konkai ha Zenjutu no Joukyo de…)

今回は前述の状況で便利なサービスを2つ、「Ajax IME」と「Ajax を使った手書き文字認識」を紹介したいと思います。「Ajax IME」はウェブベースの日本語入力サービスで、「Ajax を使った手書き文字認識」は読みの分からない漢字を手書きして探し、入力できるサービスです。ぜひ試してみてください。

「Ajax IME」の使い方

「Ajax IME」は主要なブラウザー (Internet Explorer, Firefox, Safari, Chrome)で動作しますが、
IE8の場合は互換表示設定にしないと動作しません。

図1
図 1:「Ajax IME」を使って「にほんご」を「日本語」に漢字変換している例
  1. http://ajaxime.chasen.org/」にアクセスしてください。
  2. キーボートの「Alt + o (オー)」「Ctrl + 9」、または「IME On/Off」ボタン(図1) を押すことによって、日本語変換機能が有効になったり、無効になったりします。
  3. フォームが白色から青色に変化したら、適当なローマ字を入力します。
  4. スペースキーを押すことによって漢字の変換リストが表示されます。
  5. リターンキーを押すか、次の入力を始めることによって漢字の変換が確定されます。
「Ajax を使った手書き文字認識」の使い方
図2
図 2:「Ajax を使った手書き文字認識」を使ってマウスで「海」と書いた例
  1. http://chasen.org/~taku/software/ajax/hwr/」にアクセスしてく ださい。
  2. 青い正方形のスペースにマウスで文字を書くと、右側のリストに候補となる文字一覧が表示されます。
  3. 正しい文字をマウスで選択すると、下のフォームに選択した文字が入力されます。

    (木村 学)