地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の地域化と日本ノード
細矢 剛 (国立科学博物館 GBIF 日本ノードマネージャー)
生物多様性科学の分野で GBIF といえば、かなり一般に知られるようになってきたとはいえ、「ねえ、GBIF って知ってる?」「もちろん知ってるよ。地球規模生物多様性情報機構のことだよね」というような会話はまだ日本では期待できないようです。何を隠そう、この GBIF こそは、インターネットを通じて、生物多様性情報をどこからも誰でも利用可能なように整備し、政策提言などに利用してもらおうとしている国際的な機構です。 GBIF は2001 年に設立され、遺伝研も設立当初から大きくサポートしてきました。
過去の記事は下記URLを参照
• http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2006/nl200602.pdf
• http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2011/nl201105.pdf
• http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2011/nl201106.pdf
本稿では、GBIF およびその日本ノードを中心に、最近の活動について紹介します。 |
GBIF は覚書の締結によって参加した国からの拠出金によって運営され、その本部はデンマークのコペンハーゲンにあります。 GBIF は生物標本や観察情報のデータ収集に大きな力を入れています。標本はその生物があるときその場所にいた、という確かな証拠で、極めて古くから保存されていますが、その情報のデジタル化とデータベースとしての利用はまだ限られているからです。世界中からデータを集めており、現在4.1 億を超えるデータがインターネットを通じて利用できるようになっています
(http://www.gbif.org/)。 |
写真1: GBIF の本部。
コペンハーゲン大学の動物学博物館の2階~4階に設けられている。 |
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写真2: 本部の職場の様子。
フルタイムの事務局スタッフは約20名。オフィスは数名が1フロアを共有するオープンな環境となっている。
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参加者の増加は GBIF 自身のマネジメントにも変化をもたらしました。事務局は世界を6地域(アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、ラテンアメリカ、オセアニア)とし、各地域での自主的なガバナンスによる活動を推進してきました。このような中にあって、日本が所属するアジアは、その地域の多様性(言語や文化、自然環境など)によって、なかなか統合的な活動ができていませんでした。
しかし、2011年3月の東京会合でようやくアジアの代表者が選出され(フィリピンにある ASEAN Center of Biodiversity の Sheila Vergara氏)、続く6月の台湾会合でアジアとしての戦略がまとめられ、アジア地域として大きな一歩を踏み出しました。戦略というとちょっと物騒な感じがしますが、ビジネスの世界では「長期的な視野に立って、ある目的に対する枠組みや方向性を明示したもの」を指します。また、この会合では次の戦略に基づいた活動のモデルケースとして、1) 各国レベルでの生物チェックリストの作成と統合(特に侵略的外来種、絶滅危惧種、固有種、渡り鳥)、2) 魚類データベースを利用したアジアにおける多様性喪失とリスク評価、という共通の活動を推進することが決められました。 |
<アジアの戦略> |
1) |
データ保有者とのネットワークを構築する。 |
2) |
データペーパーの出版を推奨する。 |
3) |
博物館・標本庫などに眠っている標本データの動員を促進する。 |
4) |
データの標準としてダーウィンコア・アーカイブを利用することを促進する。 |
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写真3: 台湾会合の様子。
事務局からの2名に加え、台湾、インド、日本、フィリピン、パキスタンなどから代表者が集合した。 |
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GBIF の参加者の多くは国(一部は研究機関)なので、国ごとにノードを形成して活動します。日本ノードは JBIF と通称されています。GBIF は5年ごとに中期目標としてスローガンと戦略が挙げられており、現在は「未来をとらえる」というスローガンのもとに、1) 連携の拡大、2) (データの)内容の拡充、3) インフォマティックスの充実、という戦略が設けられています。日本ノードは、アジアおよび GBIF 全体の戦略も考慮して、「日本国内の生物多様性情報の収集と利用を促進し、さらに国際貢献を図る」ことを念頭に次の戦略を決めて活動しています。 |
<GBIF 日本ノード "JBIF" の戦略> |
1) |
研究者コミュニティにおいて、多様性情報の重要性に対する認知度を向上させる。 |
2) |
生物多様性情報に関する施設の機能を向上させる。 |
3) |
一般から行政まで幅広く生物多様性情報の重要性を訴える。 |
4) |
日本ノードのプレゼンスを向上する。 |
5) |
関連プロジェクトとの連携を模索する。 |
6) |
アジア地域での共同的活動においてリーダーシップを発揮する。 |
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GBIF・JBIF ともに、データの集積と出版を目標にした組織です。しかし、データを集めるためにはそのシステムへの理解と多くの人の連携を築くことが必要です。そのためには、より透明性を高め、活動内容が見えるように発信していく必要があります。
そこで JBIF は GBIF/JBIF の活動内容をわかりやすく紹介したパンフレットを出版したり、各種の講演会で生物多様性情報の重要性を一般へ発信しています。そして、多様性情報に関連した多くの人たちとつながりをもつことによって、生物多様性情報の利用を促進しています。遺伝研は、東大とともに、デジタル化された過去の文献情報や、散在したデジタル情報を GBIF に送っています。また、全国にある博物館から提供された標本情報は国立科学博物館から GBIF へ送られており、これらの事業は NBRP の助成を受けています。現在日本のデータ出版数は4.27百万(2013年10月現在)と、順調に増加し、アジアの中では最も多いデータ出版数です。どこにどんな生物がいるか、という情報はあらゆるバイオリソースの基盤情報です。この調子でさらに多くのデータ提供を目指したく思います。 |