GBIF(Global Biodiversity Information Facility)は、何時でも、どこでも、誰でもが、世界中の生物多様性情報を利用できる情報環境を実現することを目指して発足し、2001年以来、各国からの拠出金と、各国や生物多様性分野の国際機関・プロジェクトの自助努力によって運営されている(菅原2006※1)。2001年から2006年までの第1期は“Proving the concept”を旗印とし、2007年から2011年までの第2期は“Towards full operation”を旗印として、着実に歩みを進めている。2010年末の時点で、55カ国と46の国際組織・プロジェクトが参加し、300のデータ提供機関が有する10,000のデータセットから2億7千万件の生物多様性情報を一括検索し、分布情報を閲覧することが可能になった。
2010年10月に、生物多様性への取り組みにおいて重要な国際会議が名古屋で開催された。生物多様性条約第10回締約国会議(Convention on Biological Diversity 10th Conference of the Parties (CBD COP10))である。この会議の重要な成果の一つは、ABS(Access and Benefit Sharing、遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分)の新議定書「名古屋議定書」策定である(鈴木2010-2011※2)。このABSを具体化するには、「いつどこにどのような遺伝資源が存在していたのか/存在しているのか」のデータが必要であり、また、商品化された遺伝資源を原産国まで辿れる情報管理の仕組みも必要である。
CBD COP10会議のもう一つの重要な成果は、「愛知ターゲット」が設定されたことである。2002年の第6回会議(CBD COP 6)で設定された2010年ターゲット「締約国は現在の生物多様性の損失速度を2010 年までに顕著に減少させる」が未達であることを認め、2020 年までの、より具体的な達成目標「愛知ターゲット」20項目が設定された(環境省2010※3)。
このターゲットの一つが「2020年までに、生物多様性、その価値や機能、その現状や傾向、その損失の結果に関連する知識、科学的基礎及び技術が改善され、広く共有され、適用される」である。すなわち、生物多様性の現況を反映するデータを共有すること自体も、2020年までの達成目標として挙げられている。
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参考資料 |
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※1 |
菅原秀明(2006)
「Global Biodiversity Information Facility (GBIF)
2011年GBIFは180万種10億件の生物多様性情報を提供する」 *Bioresource Now! Vol.2, No.2 |
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※2 |
鈴木睦昭(2010-2011)
「生物多様性条約と遺伝資源をめぐる状況(3回連載)」*BioResource Now! Vol 6. No.12、Vol 7. No. 1、Vol 7. No.2 |
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※3 |
環境省(2010)「条約新戦略計画
(ポスト2010年目標該当箇所)」[環境省仮訳]
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=16471&hou_id=13104 |
GBIFは、これらCOP10で策定された名古屋議定書と愛知ターゲットが必要とする情報基盤を提供する立場にあることを自他共に認め、第3期(2012~2016年)の旗印を“Seizing the future to benefit science and society”と設定した。事実、表1に例示する生物多様性、生態、生物分類等に関する多くの国際組織やプロジェクトが、GBIFをその情報基盤として期待し、GBIFとの連携を深めている。第3期はまた、2011年から2020年までの“United Nations Decade on Biodiversity”においても重要な役割を果たすことになろう。
表1
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日本GBIFノードは何をしているのか
1)国内データのGBIF公開
GBIFにおける生物多様性情報は、分散統合システムによって、網羅的検索が可能になっている。すなわち、各国や国際組織等のノードが、各地域や特定分野のデータをGBIFの標準に則って公開作業を行うと、続いてコペンハーゲンにあるGBIF本部のシステムがglobal indexingを行い、その結果、誰でもが、他国あるいは他組織由来のデータを検索・閲覧可能となるという仕組みである。したがって、GBIF日本ノードの役割は第一に国内データをGBIF標準で公開することである。GBIF日本ノードでは、国立遺伝学研究所(以下、遺伝研)と東京大学(以下、東大)が協力して、主として観測データを、国立科学博物館(以下、科博)が主として標本データのGBIF公開に努めてきた。
その結果、2011年5月時点で動物、植物ならびに微生物の観測または標本データを235万件余り公開した。これは、GBIF公開データ総数2億7千万件に対してはごく一部ではあるが、加盟国の中で15位、アジア諸国の中で1位にあたる公開件数である。
国内データの公開のためには、公開のためのツールを用意する必要がある。遺伝研では、2010年度にデータ公開プロトコルを最新のIntegrated Publishing Toolkit (IPT: http://gbif.ddbj.nig.ac.jp/ipt/ ) へ更新した。その結果、より多様なデータ項目が公開可能となり、また、データを提供している機関やデータの由来を図1のように可視化することができた。科博においてもGBIF公開のためのツールに加えて自然地名の辞書を整備し、東大では学名辞書を整備している。 |
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図1 GBIFのIntegrated Publishing Toolkitで容易になったデータ源の可視化:
遺伝研から公開したデータの提供機関(by Hosting Body)、由来国(by Region)、分布(by Coordinates)の例 |
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遺伝研は2010年にDiGIRに替えてIPTを採用したが、GBIFにはその他にも複数のデータ標準が共存している。それぞれの利用状況(http://www.gbif.nig.ac.jp/stat/index.html)を表2にまとめた。簡便なDarwinCoreとDiGIRの方がよく使われているように見えるのは、米国由来のデータが大部分を占めていることに因る。
遺伝研はまた2010年に、観測や研究の現場ではデータがExcelに書き込まれていることが多いことに着目して、DarwinCoreへの適合性を判定できるマクロを組み込んだ、エクセルブックを開発した。これは、手元のパソコンで手軽に使えるツールであり、今後GBIFデータ公開促進のためのGBIF日本ポータルサイトの「GBIF公開支援(http://www.gbif.nig.ac.jp/gbif_regist.html)」のページから公開する。(後編へ続く)
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表2 GBIFデータ公開プロトコルの使用状況
DarwinCoreとDiGIR protocolは米国グループが開発した標準で、ABCD Schema, TAPIR protocol, BioCASE protocolは、TDWG(http://www.tdwg.org/) が開発した標準。
IPTはGBIFで統合化を進め2010年から公開されたツールキットで、データ公開プロトコルとしてTAPIRを選択することもできる。 |
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