-国内外のバイオリソースを巡る様々な問題や取り組みについて、毎月ホットな話題をこのニュースレターで紹介していきます-


BioResource Newsletter  Vol.4 No.8

■ リソース関連イベント情報:

  詳細

■ リソースセンター紹介 No.27:

・ナショナルバイオリソースプロジェクト
  「ミヤコグサ・ダイズ」

 

 

 

  明石 良 
(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター)

shigenImage

2008/8/31 


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バイオリソース関連サイトは以下のサイトからご覧になれます。

NBRP http://www.nbrp.jp/
SHIGEN  http://www.shigen.nig.ac.jp/indexja.htm
WGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/
JGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/jgr/jgrUrlList.jsp
 

  リソース関連イベント情報

 最先端バイオリソースの利用のための技術研修開催
    (組換えアデノウイルスの取扱に関する技術研修)の参加者募集のご案内

     研修期間:平成20年10月22日(水)- 10月24日(金)
     実施場所 : 理化学研究所 筑波研究所

 最先端バイオリソースの利用のための技術研修開催
    (マウス精子・胚の凍結保存方法に関する技術研修)の参加者募集のご案内

     研修期間:平成20年10月20日(月)- 10月23日(木)
     実施場所 : 理化学研究所 筑波研究所

 日本動物学会 第79回 福岡大会 『シンポジウムとパネル展示』
     日程:2008年 9月5日(金) - 7日(日)
     場所:福岡大学

 日本遺伝学会 第80回大会(名古屋) 『ブース開設』
     日程:2008年 9月3日 (水) - 5日 (金)
     場所:名古屋大学工学部 IB電子情報館

詳細はこちらからご覧になれます。 http://www.nbrp.jp/

 

  リソースセンター紹介  No.27

 

 ナショナルバイオリソースプロジェクト
   「ミヤコグサ・ダイズ」

     明石  良  教授
     宮崎大学フロンティア科学実験総合センター


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-NBRP Legume Base-

Legume

 

 


   NBRPミヤコグサ・ダイズについて

   マメ科植物は、大きく分けてダイズ、アズキ、インゲンおよびエンドウ等の食料マメ類、ラッカセイ等の油料マメ類、アルファルファやクローバー等の飼料マメ類、また、カンゾウやクズ等の薬料マメ類、さらにはレンゲ、ルーピンおよびセスバニア等の肥料マメ類に分類され、様々な分野で利用されていることから、大変重要な植物種です。 ミヤコグサ(Lotus japonicus)は、わが国に広く自生する多年性マメ科植物で、ゲノムサイズが小さく、ライフサイクルが短いなどの特徴からマメ科のモデル植物として広く利用されています。 一方、ダイズ(Glycine max) は古くから重要な農業用作物として栽培され、その基礎的研究も多く蓄積されています。 ミヤコグサで収集・開発されるリソースとその情報は、根粒菌との共生による収量性の改良や栄養機能性の向上等、ダイズにおける多種多様な研究の効率化を図る上で欠かせません。
   また、本事業は、基礎研究(ミヤコグサ)から応用研究 (ダイズ) までを広くカバーできるリソースを収集・提供することで、マメ科植物における研究基盤の構築を目指しています。


 


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図:ミヤコグサおよびツルマメの採取地



center 1. 新規ミヤコグサ実験系統 - Lotus burttii B-303 -

   現在、ミヤコグサ実験系統は、Miyakojima MG-20 と Gifu B-129 の2系統が多く利用されていますが、Lotus burttii B-303を新規系統として追加し、2008年5月にWeb上で公開しました。本リソースは、花色が薄い黄色であり、成熟と共にピンク色に変化し、Miyakojima MG-20と同様に早咲きで世代期間が短く、実験室内で栽培しやすい特徴を有しています。さらに莢における耐裂莢性 が高い特徴を持つことから、ダイズの裂莢性に関連するQTL解析などのダイズ育種に応用できるものと期待しています。
   耐裂莢性:「さや」がはじけて中の種が飛び散ってしまう性質を「裂莢性」と言い、はじけ難い性質を「耐裂莢性」と言う。

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図:Lotus burttii B-303の特徴


center 2. ミヤコグサのゲノム解読

   2008年5月29日、財団法人かずさDNA研究所は、マメ科植物では世界初となるミヤコグサ(Lotus japonicus)のゲノムを解読したことを発表しました(http://www.kazusa.or.jp/j/information/news20080529.html)。このことから、ミヤコグサリソースは更に重要なリソースとして地位を確立しました。得られた成果・情報は Miyakogusa.jp(http://www.kazusa.or.jp/lotus/)で公開されており、それらのDNAクローンは Legume Base より分譲可能となっています。

 

miyakogusa
- Miyakogusa.jp -
http://www.kazusa.or.jp/lotus/


center 3. ミヤコグサの農業形質に関するQTLとマメ科植物間のゲノムシンテニー 1

   ミヤコグサは、マメ科のモデル植物であり、その遺伝情報をダイズなどのマメ科作物の育種に応用することが期待されています。マメ科作物の重要形質には、開花、草丈、草型、莢の形質、種子重および種子成分などが挙げられ、これまで13の基本的な農業形質に関する QTL2 がミヤコグサで明らかとなっています(図1)。また、近年ではミヤコグサを中心に他のマメ科作物とのゲノムシンテニーが明らかにされつつあり、ミヤコグサにおいて農業上重要な形質に関わる QTL を明らかにすることで、対応するマメ科作物の QTL 領域が推定できると考えられます。特に、種子重についてはミヤコグサで得られた5つの QTL のうち4つがダイズの既知の QTL と対応しており、他のマメ科作物においても保存性が高いことから、これら種子重の QTL はマメ科作物の中で同祖的な QTL である可能性が高いと考えられます(図2)。


※1 ゲノムシンテニー:遺伝子の配置など、ゲノム同士の構造が似ていること。
※2 QTL:Quantitative Trait Lodusの略で、日本語では「量的形質遺伝子座」という。背丈、収量など連続した数字で表すことのできる性質を「量的形質」と言い、そのような性質に影響を与える遺伝子領域をQTLと呼ぶ。


図1
図1. ミヤコグサの13農業形質に関する QTL
(Genome 50 : 627-37, 2007)

図2
図2. ゲノムシンテニーによるマメ科植物間の種子重に関する QTL 座乗位置の比較 (Genome 50:627-37, 2007)


center 4. 教育材料としてのミヤコグサの利用


  1.宇宙ミヤコグサ
   宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、青少年が実験・観察を通して「宇宙と生命」に関連する多様な研究分野や科学的考え方などを学ぶことを目的とする「サンプルリターンミッション」を実施しています。
   また、株式会社リバネスでは、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の有償利用により、宇宙に送った種子をきっかけに、子どもたちへサイエンスに対する興味を喚起することを目的とする「宇宙教育プロジェクト」を実施しています。
   これらの計画では、種を国際宇宙ステーション(ISS) へ打ち上げ、「きぼう」船内保管室に約半年間保管した後、地上へ回収し、健全性が確認されたサンプルを希望する小中高校・科学館等に配布し、教育活動へ活用してもらう予定としているようです。 NBRPミヤコグサ・ダイズ中核機関および宮崎大学は、これらの教育計画にミヤコグサ種子を提供しサポートしています。




   2.NHK「10 min. ボックス」ミヤコグサ出演決定!
   本番組は、中学校・高等学校の理科のうち生物的分野に関する映像をコンパクトにまとめた10分間の番組です。日常生活など身近な事象との関わり、基本的な原理に迫る観察・実験などのハイビジョン撮影による新鮮な映像で構成します。現在、NHKと宮崎大学では、来年の放送に向けて撮影・編集を進めています。



宮崎大学での撮影の様子



 

  NBRP データベース講習会(リソース別)に参加して


7月22日-24日、NBRP情報センターではミヤコグサ・ダイズグループを対象にデータベース講習会を実施しました。
初めての試みでしたので、参加してくださったお二人に感想を伺ってみました。

   7月22日からの3日間、国立遺伝学研究所主催のNBRPデータベース講習会に参加しました。私は、website や DB(データベース)の基礎知識が皆無のままの参加でしたが、DBの仕組みや作成方法について基本的な内容から説明頂きました。本講習を受講して、website および DB作成・管理におけるリソース中核機関の役割(できる事)の再認識や、データのまとめ方等を理解することができました。今後は情報センターとの連携がスムーズになり、作業の効率化が図れるのではないかと感じました。リソース中核機関の皆様、当然それぞれの機関でサーバ等の管理能力の差がありますが、是非講習を受けられることをお進めします。DB等の仕組みを知るだけでも、情報中核機関の重要性を再認識でき、担当website にも愛着が増すと思います。 有意義な講習を行っていただきありがとうございました。   (宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 橋口 正嗣)


   NBRPミヤコグサ/ダイズのウェブサイトは、その一部を宮崎大学内に設置したサーバにて運用を行っています。日頃、延々と電源が入っている2台のサーバの役割が気になり始めていた矢先、国立遺伝学研究所にてデータベース講習会を行っていただける機会に恵まれ、2泊3日でお邪魔させていただきました。 JAVA、PERL、 SQL...色々な場面で言葉を聞きながらも今ひとつ理解できずモヤモヤしていたものが、体系立てて教えていただいたおかげで、自分の中の曇りを晴らすことができた有意義な講習会でした。 宮崎に戻り早速、研究室の空きパソコンに MySQL と PERL の環境を整え、今のところ何の役にも立たないものを作っては自己満足に浸っています。 最後になりましたが、スタッフの方々に心より感謝いたします。ありがとうございました。   (宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 田中 秀典)




編集後記 :  今月はミヤコグサの研究用リソースとしての可能性について明石先生に熱く語っていただきました。 また初めて実施したデータベース講習会は、リソースという「物」を扱う人とコンピュータ上の「情報」を扱う側との相互理解を深める上で大変有意義でした。「物」と「情報」は一体であるのが理想ですが、それらを扱うために必要とされる技術にはかなりの開きがあります。役割分担と相互理解の重要性を再認識したことでした。(Y.Y.)

連絡先 :〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所・生物遺伝資源情報総合センター
TEL 055-981-6885 (山崎)
E-mail brnews@chanko.lab.nig.ac.jp