-国内外のバイオリソースを巡る様々な問題や取り組みについて、毎月ホットな話題をこのニュースレターで紹介していきます-


BioResource Newsletter  Vol.4 No.5

■ リソース関連イベント情報:

  詳細

 リソースセンター紹介:No.24

・ナショナルバイオリソースプロジェクト
  「ゼブラフィッシュ」

 

 

  岡本 仁 (理研・脳科学総合研究センター)

■ じょうほう通信 No.32 :

・ Microsoft Officeファイルを オンラインで
  活用しよう!

shigenImage

2008/5/31  


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バイオリソース関連サイトは以下のサイトからご覧になれます。

NBRP http://www.nbrp.jp/
SHIGEN  http://www.shigen.nig.ac.jp/indexja.htm
WGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/
JGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/jgr/jgrUrlList.jsp
 

  リソース関連イベント情報

 平成20年度NBRP「ゲノム情報等整備プログラム」の課題選定結果発表!
     メダカ、ラット、トマトの3課題が採択されました。

 ラットリソースプロジェクト(NBRP-Rat) Nature Genetics 5月号に掲載!
     英国科学雑誌「Nature Genetics 5月号(ラット特集号)」にラットリソース
     プロジェクト(NBRP-Rat)の事業成果及び関連研究が掲載されました。

 第18回 酵母合同シンポジウム
    酵母の挑戦「生命現象の包括的理解と応用に向けて」

     日程:2008年 6月5日 (木) - 6日 (金)
     場所:甲南大学 甲友会館 (〒658-8501 神戸市東灘区岡本8-9-1)

詳細はこちらからご覧になれます。 http://www.nbrp.jp/


  リソースセンター紹介  No.24

 

 ナショナルバイオリソースプロジェクト
      「ゼブラフィッシュ」

   岡本 仁
   (理化学研究所 脳科学総合研究センター)

zebra


zebrafish


      疾患モデル動物としてのゼブラフィッシュ

 


logo ゼブラフィッシュは、胚が透明で遺伝学的アプローチが可能な最も単純なモデル実験脊椎動物として、世界的にゲノム情報や胚操作技術が蓄積されてきています (図1-A,B[1]。 我が国では、東島(岡崎統合バイオセンター)らによって世界に先駆けて、様々な特異的な細胞群を蛍光タンパク等で標識し可視化したトランスジェニックフィッシュが作製されており(図2-A, 図2-B[2,3]、これらを用いて複数の機関で中規模から大規模な突然変異スクリーニングが行われています(図2-C)。 また古賀と堀(名古屋大学)によって発見されたトランスポゾン Tol2 を使ったゲノム遺伝子改変技術が川上(遺伝研)によって開発され、 トランスポゾン挿入によるエンハンサートラップ系統や遺伝子破壊変異体を系統的かつ大規模に作製することが可能となりました(図2-D[4]。この他にも筆者らによって、 胚が透明であることを利用して、 紫外線照射によって、 胚のどの部分でも任意の遺伝子を発現できる技術や、 特定の神経細胞のみを標識する技術 (図2-E,F)など、様々な革新的技術が我が国から生まれています[5,6]。 その結果我が国のゼブラフィッシュ研究者達からは、技術的にも生物学的にも非常に質の高い研究が発表されてきています。


Fig.1


Fig.3


 

図2-A:

運動神経細胞特異的にGFPを発現するトランスジェニック・ゼブラフィッシュ胚

図2-B:

脊髄介在神経細胞でGFPを発現するトランスジェニック・ゼブラフィッシュ胚

図2-C,D:

GFPを発現する三叉運動神経と顔面運動神経(緑)による下顎筋群(赤)の支配
(C)は正常胚、(D)は突然変異胚。 (D)では三叉運動神経の軸索走行が乱れている。

図2-E:

脊髄一次運動神経細胞で特異的にGFPを発現するエンハンサートラップ系統 (国立遺伝学研究所 川上浩一博士提供)

図2-F:

脊髄の全ての一次神経細胞で緑色蛍光蛋白Kaedeを発現するトランスジェニック胚の、一つの神経細胞(矢印)だけに紫外線を照射すると、この細胞内のKaedeが赤色に変色するために、この細胞から伸び出る神経軸索の走行を追跡できるようになる(文献6)。


logo ゼブラフィッシュではエンハンサートラップやジーントラップによって、体の中のどの細胞でも、任意の遺伝子を発現できる系統ストックが確立しつつあります[7,8,9,10]。また、BAC (bacterial artificial chromosome) やPAC (P1 artificial chromosome) など、比較的大きなゲノム断片に、大腸菌内での遺伝子組み換えによってマーカー遺伝子等を導入した後、これを使ってトランスジェニック個体を作成する技術も確立しています[11,12]。これによって、外来遺伝子の組織特異的発現を、従来よりも正確に行えるようになってきました。更に、化学的変異原によって突然変異を誘発された精子のストックを作製し、その中から興味のある特定の遺伝子に突然変異を持つものを同定し、人工授精によって個体を作製し、これを供給できる技術も、発展してきています[13]。 更に最近になって、特定の遺伝子配列のみを認識するように設計された人工 zinc-finger nuclease を使って、ゲノムの中で標的遺伝子だけを破壊することが可能になってきました。同じ技術の改良によって、標的遺伝子の置換も可能になると期待されています[14,15]。また、紫外線の照射によって、胚の特定の組織のみで遺伝子を不活化する技術も発表されています[16,17,18]


logo ゼブラフィッシュは、初期発生の研究など基礎生物学研究の材料としてだけでなく、基礎科学と疾患研究などの応用生命科学との橋渡しにも一役買っています。 嚢胞腎の疾患モデルとして単離された突然変異系統の多くが、繊毛の構成タンパクに突然変異を持つことから、繊毛がWntシグナルを、正準型 (canonical) か、細胞平面極性型 (planar cell polarity) のどちらのカスケードを通して細胞に伝えるかの制御に、重要な役割を果たしていることが明らかになってきました[19]。動脈や静脈、リンパ管などの脈管系の分化メカニズムの解明にも、ゼブラフィッシュの突然変異系統やトランスジェニック系統を使った研究が、重要な役割を果たしています[20,21]


logo 最近、ゼブラフィッシュを含めた硬骨魚類の終脳の発生の仕組みが明らかになるにつれて、ゼブラフィッシュの終脳が、ヒトを含む脊椎動物の大脳皮質や、海馬や扁桃体を含む大脳辺縁系、大脳基底核などに相当する部位を持っていると考えられるようになり、ゼブラフィッシュの脳は、これまでに考えられてきたよりはずっと、その基本構造において、哺乳類の脳と類似していると考えられるようになってきました。その結果、記憶や睡眠や薬物依存や、脳の機能的左右差の成立機構など、複雑な行動の分子基盤を知るためにも、ゼブラフィッシュは使われるようになってきています[22,23]


logo  このように、これまでにゼブラフィッシュを材料として用いてこなかった多くの研究者が、これから参入すると予測されます。ゼブラフィッシュバイオリソース事業では、これらのユーザーの期待に答えられるように、より役に立つ、より多くのリソースの提供を行えるように、今後とも努力していきたいと考えています。 本プロジェクトの、代表機関である理研脳センター(図3)では、主に野生型系統、突然変異系統、突然変異系統、トランスジェニック系統の収集・保存・提供を行っています。 本プロジェクトで収集された系統は、プロジェクトのホームページ以外にも、米国で運営されている Zebrafish Information Center のサイトにも登録されており、両者がリンクしています。 近い将来研究者コミュニティーのご協力を得て、日本から発表される系統の全てが、本プロジェクトに寄託され、保存・供給できるように努力していきたいと考えています。そのための、寄託者と知的財産権の保護等も、改良を重ねていきたいと考えています。本プロジェクトのサブ機関として、国立遺伝学研究所の川上浩一がエンハンサートラップ系統とジーントラップ系統の、岡崎統合バイオサイエンスセンターの東島眞一がトランスジェニック系統の、収集・保存・供給を行っています。 これらの機関から供給される系統も、プロジェクトのホームページから、請求できます。 読者の皆様には、お気軽にホームページにアクセスいただき、ご利用いただきますようにお願いいたします。

※ 文献[1〜23] については、ページの最後で紹介しています。

Fig.3



logo

 


  じょうほう通信  No. 32

   Microsoft Officeファイルをオンラインで活用しよう!


 

   多くの方々が日々何らかの形で「Microsoft Office」のファイルを扱っていると思います。 そこで今回はMicrosoft Officeのファイル (Word, Excel, PowerPoint, Outlook) を一層便利活用するためのサービスを紹介します。 それはまだベータ版ですが、 Microsoft が2008年05月23日に開始した 「Microsoft Office Live Workspace」の日本語版です。
   このサービスを使うと、以下のようなことが出来るようになります。


    ・ 自分のパソコンからオンライン上にファイルを保存
    ・ オンライン上でブラウザによるファイルの閲覧
    ・ グループ間で同一のファイルを共有・編集
    ・ 自分のパソコンとオンライン上のファイルの同期を取る


   以下の環境で利用できます。


Microsoft
Microsoft Office Live Workspace

 


Table


   ファイルを閲覧する時はブラウザのみで内容を表示させることが出来ますが、ファイルを編集する時に Microsoft Office が必要となります。


GMap

   それでは、サービスを利用してみましょう。 最初にこちら(http://workspace.officelive.com/) のURLにアクセスして、 「サインアップ」ボタンをクリックします。 すると「Office Live アカウントへのサインイン」が求められます。「Windows Live ID」 を既に持っている人はそのIDを使ってサインイン出来ますし、まだ持っていない人は自分のメールアドレスを使って 「Windows Live ID」 を作成した後にサービスを開始することができます。(※ 左図の画面に移動しない場合、一度サインアウトして後に再びサインインすると移動できます。) サインインした後の画面は「ドキュメント」という「マイワークスペース」が選択されています。「ワークスペース」は、自分や許可を与えたユーザーでファイルの操作・閲覧を行うことができる場所です。その画面上部には「新規作成」・「ドキュメントの追加」・「削除」・「移動」・「共有」といったメニューが表示されますので、こちらから様々な操作を行うことができます。


 

 

   ここでは1つのWordファイルをアップロードしてみましょう。まずメニューの「ドキュメントの追加」を選択し、「単一のドキュメント」をクリックします。するとファイルの選択画面になりますので、アップロードするファイルを選び、しばらく待つとドキュメントの追加は完了します。
   次に追加したドキュメントの名前をクリックすると、右図のようにドキュメントのプレビューを閲覧することが出来ます。さらに、他のユーザーとの共有やファイルのバージョン管理, コメントの追加などを簡単に行えますので、この機会に利用してみてはいかがでしょうか。


preview

(木村 学)  



編集後記 :  短期間でモデル生物になった生物種のコミュニテイを見ると、 そこには「リソースの自由な利用」と「情報の集中化」という文化が根付いているように思います。 ゼブラフィッシュはそのよい例です。限られたスペースの中でリソースを最大限アピールしていただきました。 岡本先生に謝謝。(Y.Y.)

連絡先 :〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所・生物遺伝資源情報総合センター
TEL 055-981-6885 (山崎)
E-mail brnews@chanko.lab.nig.ac.jp

<ゼブラフィッシュ参考文献>

1: Detrich, H.W., Westerfield, M., and Zon, L.I.(2004) The zebrafish: 2nd Edition, Methods in Cell Biology, vol 76, 77.


2: Higashijima, S., Hotta, Y., and Okamoto, H. (2000) Visualization of cranial motor neurons in live transgenic zebrafish expressing GFP under the control of the Islet-1 promoter/enhancer. J. Neurosci. 20: 206-218.


3: Higashijima S, Masino MA, Mandel G, Fetcho JR. Engrailed-1 expression marks a primitive class of inhibitory spinal interneuron.
J Neurosci. 2004 Jun 23;24(25):5827-39.


4: Kawakami K, Shima A, Kawakami N. (2000) Identification of a functional transposase of the Tol2 element, an Ac-like element from the Japanese medaka fish, and its transposition in the zebrafish germ lineage. Proc Natl Acad Sci U S A. 97:11403-8. 2000


5: Ando, H., Furuta, T., Tsien, R. Y. and Okamoto, H. (2001) Photo-mediated gene activation using caged RNA/DNA in zebrafish embryos. Nature Genetics, 28: 317-325.


6: Sato T, Takahoko M, Okamoto H. (2006) HuC:Kaede, a useful tool to label neural morphologies in networks in vivo. Genesis. 44:136-42.


7: Kawakami K, Takeda H, Kawakami N, Kobayashi M, Matsuda N, Mishina M. (2004) A transposon-mediated gene trap approach identifies developmentally regulated genes in zebrafish. Dev Cell. 7:133-44.


8: Davison JM, Akitake CM, Goll MG, Rhee JM, Gosse N, Baier H, Halpern ME, Leach SD, Parsons MJ. (2007) Transactivation from Gal4-VP16 transgenic insertions for tissue-specific cell labeling and ablation in zebrafish. Dev Biol. 2007 304:811-824


9: Scott EK, Mason L, Arrenberg AB, Ziv L, Gosse NJ, Xiao T, Chi NC, Asakawa K, Kawakami K, Baier H. (2007) Targeting neural circuitry in zebrafish using GAL4 enhancer trapping. Nat Methods. 4:323-326.


10: Asakawa K, Suster ML, Mizusawa K, Nagayoshi S, Kotani T, Urasaki A, Kishimoto Y, Hibi M, Kawakami K.(2008) Genetic dissection of neural circuits by Tol2 transposon-mediated Gal4 gene and enhancer trapping in zebrafish. Proc Natl Acad Sci U S A. 105:1255-1260.


11: Higashijima S. (2008) Transgenic zebrafish expressing fluorescent proteins in central nervous system neurons. Dev Growth Differ. in press.


12: Sassa T, Aizawa H, Okamoto H. (2007) Visualization of two distinct classes of neurons by gad2 and zic1 promoter/enhancer elements in the dorsal hindbrain of developing zebrafish reveals neuronal connectivity related to the auditory and lateral line systems. Dev Dyn. 236:706-718.


13: Draper BW, McCallum CM, Stout JL, Slade AJ, Moens CB. (2004)A high-throughput method for identifying N-ethyl-N-nitrosourea (ENU)-induced point mutations in zebrafish. Methods Cell Biol. 77:91-112.


14: Meng X, Noyes MB, Zhu1 LJ, Nathan D Lawson ND, Wolfe SA (2008) Targeted gene inactivation in zebrafish using engineered zinc-finger nucleases. Nature Biotech. in press


15: DoyonY, Jasmine, McCammon M, Miller JC, Faraji F, Ngo C, Katibah GE, Amora R, Hocking TD, Zhang L, Rebar EJ, Gregory PD, Fyodor D Urnov FD, Amacher SL (2008) Heritable targeted gene disruption in zebrafish using designed zinc-finger nucleases. Nature Biotech. in press


16: Tang X, Maegawa S, Weinberg ES, Dmochowski IJ. (2007) Regulating gene expression in zebrafish embryos using light-activated, negatively charged peptide nucleic acids. J Am Chem Soc. 129:11000-11001.


17: Shestopalov IA, Sinha S, Chen JK. (2007) Light-controlled gene silencing in zebrafish embryos. Nat Chem Biol. 3:650-651.


18: Okamoto H. (2007) Yin-yang ways of controlling gene expression are now in our hands. ACS Chem Biol. 2:646-648.


19: Ross AJ, May-Simera H, Eichers ER, Kai M, Hill J, Jagger DJ, Leitch CC, Chapple JP, Munro PM, Fisher S, Tan PL, Phillips HM, Leroux MR, Henderson DJ, Murdoch JN, Copp AJ, Eliot MM, Lupski JR, Kemp DT, Dollfus H, Tada M, Katsanis N, Forge A, Beales PL. (2005) Disruption of Bardet-Biedl syndrome ciliary proteins perturbs planar cell polarity in vertebrates. Nat Genet. 37:1135-1140.


20: Cha YR, Weinstein BM. (2007) Visualization and experimental analysis of blood vessel formation using transgenic zebrafish. Birth Defects Res C Embryo Today. 81:286-296.


21: Zacchigna S, Ruiz de Almodovar C, Carmeliet P. Similarities between angiogenesis and neural development: what small animal models can tell us. Curr Top Dev Biol. 80:1-55.


22:岡本仁 (2006) 魚は心の解明に役立つか? -還元主義的心の研究の材料としての魚- 分子精神医学、特集"動物に精神疾患はあるか?", 6:377-386.


23: 相澤秀紀、岡本仁 (2007) ゼブラフィッシュを使って明らかになってきた脳の神経回路の左右差、Medical Bio, 9月号、82-88.