マウスおよびラットの系統命名規約

マウスの遺伝命名標準化国際委員会ならびにラットゲノムおよび命名規約委員会

 

 

 

 

訳 加藤秀樹

浜松医科大学医学部附属動物実験施設

 

 

 

2001年マウスおよびラットの国際命名規約委員は、合同で系統命名法を確立することに合意した。見直されたガイドラインでは改訂されたルールを記述してある。 マウス系統の命名に関する以前の版についての文献は次の通りである。Snell (1941)、マウスの国際標準化命名規約委員会 (1952, 1960, 1976, 1981, 1989, 1996), Festing (1979, 1993), Staats (1986), Maltais et al. (1997) 、オンライン(Mouse Genome Databasehttp://www.informatics.jax.org/mgihome/nomen/old_strain.shtml)。ラットの旧系統命名規約についてはCommittee on Rat Nomenclature (1992)にある。

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目次

1.

1.1.

1.2.

2. ラボ

3. 近交

3.1.

3.2. 近交命名

3.3. 近交表記

3.4. 亜系

3.5.

4. 複数の交系を基に育される系統

4.1. リコンビ近交系

4.2. 混合型近交

4.3. リコンビナントコニック

4.4. アドバストインタークロスライン

5. コアイソジェニック、コンジェニック、コンソミックおよび分離型近交系、コンプラスティック系統

5.1. ソジェニック系統

5.2. コンジック系

5.3. コンソック系統

5.4. 分離交系

5.5. コンプック

6.

 

1

実験用マウスおよびラットは様々な資源に由来している。近交系の育成は、系統の歴史的背景を明確に市、命名の慣習が必要となる。遺伝的浮動は、系統内の個体間で見られる未知の遺伝的違いがまだあるかもしれないことを意味するということを記憶すべきである。

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1.1.

ほとんどの実験動物マウスは Mus musculus musculus Mus musculus domesticusに由来している。Mus musculus molossinus Mus musculus castaneus の貢献もあるという証拠がすこしある。従って、種名ではなく、むしろ実験用マウスとして、または、特異的な系統あるいは集団名を使って述べられるべきである。加えて、 いくつかの最近育成された実験動物マウス系統はもっぱら他の Mus 種、または、 他の亜種(M. spretus)に由来している。マウス系統名は、MGD Mouse Genome Database http://www.informatics.jax.org/mgihome/submissions/submissions_menu.shtml)を通して登録されるべきである。

1.2.

実験用ラット系統は、Rattus norvegicus に由来している。他の種、例えば、Rattus rattusも使われることはあるが、通常の系統には貢献していない。 ラットの系統名はGenome Database (RGD) at http://rgd.mcw.edu.通して登録される。

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2ラボコード(施設(登録)記号)

マウスおよびラットの命名の主要な特徴は、施設登録記号(ラボコード)であり、通常、34文字からなり(最初の文字は大文字でその後は小文字)、マウス、ラットの系統を育成または保持する個々の研究所、研究室、個人を特定するものである。コンジェニックや他の系統ではいくつかの異なるフォームがあって、他に識別する方法がないような場合には亜系統はラボコードで識別されるべきである。ラボコードは Institute for Laboratory Animal Research (ILAR) (http://dels.nas.edu/ilar/animmod.asp)が割り当てている。

             ラボコードの例

                          J           ジャクソン研究所

                          Rl         W.L. and L.B. Russell(人名)

                          Jr         John Rapp (人名)

                          Mcw      Medical College of Wisconsin

                          Kyo       Kyoto University

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3近交

3.1.

系統は、20世代かそれ以上兄妹交配が行われた時近交系とみなされ、その系統の個体をたどると1組の祖先にたどることができる。近交系になった時点で個体のゲノムは平均して1%のヘテロの遺伝子座をもち(遺伝的浮動を除く)、目的どおり遺伝的に同じとみなされる。以降、近交系は兄妹交配かそれに準じる方法で交配を続けなければならない。近交系を作るのに他の育種スキームを使っても良い。例えば、連続した親仔交配でもよいし、親の若い方の個体を使う(例:親と交配する仔は続けてその仔と交配する。連続20回の兄妹交配と同等であるような他の交配スキームも受け入れられる (Green 1981)

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3.2. 近交系の

近交系は、簡潔に、大文字、ローマ字、または、文字と数字の組み合わせからなる特徴のあるシンボルで表される(ただし、文字から始める。すでに存在している系統の中でこの習慣に従わない例:129P1/J)。注意すべきこととして、マウス、ラットの系統はオーバーラップしないように命名されるべきである (備考:歴史的なこととして、数は少ないがマウスとラットで類似の名前が存在する。それらをユニークに認識するために亜系統の表記を行って存続できるようにする。同じ由来であるが、F20代前に分かれた場合、それらは近縁の系統であり、このことが分かるようなシンボルにする。

                       マウス:        NZB, NZC, NZO

                       ラット:          SR, SS

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3.3. 近交系の表

兄妹交配世代数は、必要に応じて括弧の中にFと世代数で表す。

                       ラット:ACI/N (F159)

世代の情報がない場合であっても最近の世代数が分かっている場合、F疑問符+最新世代数で表す。

                       マウス:C3H/HeJ–ruf (F?+25)

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3.4. 亜系

すでに確立された近交系は、遺伝的に多くの環境に因り、亜系統へと時間と共に分かれていると考える。

          F20から40世代で2つのラインに分かれた場合、2ラインが遺伝的に違うことを証明するヘテロ型の遺伝子座が多数存在すると考えられる (Green 1981)

          もし、2ラインが共通祖先から分かれてF20代以上である時、ライン間の遺伝的変異が突然変異や遺伝的浮動によって起こっていると考えられる。

          遺伝的違いがライン間で起こっていることが遺伝解析によって証明された。

亜系統は、オリジナル系統の後ろにスラッシュと亜系統表示により表記するが、亜系統表示は通常その系統が由来する研究室や個人の記号である。

             例     IS/Kyo:      京都大学由来のIS亜系統

                       A/He :       Walter Hestonに由来するA亜系統

もし、一つの研究室が1つ以上の亜系統持つ場合、ラボコードに連番をつけて亜系統を標記する。

                       マウス:       FL/1ReFL/2Re

(備考: 歴史的にこのルールに合わない例外:BALB/cマウスは亜系統ではない。DBA/1 DBA/2 は別系統であって亜系統ではない。)

亜系統は、異なる研究者がさらに系統維持を行うことによって、また、新しいコロニーが確立されることにより、さらに別の亜系統が生み出される。亜系統はオリジナルの亜系統と遺伝的に異なることが証明された場合に生じる。どちらの場合も、さらに亜系統表記がなされるが、スラッシュを重ねることはない。

          C3H/HeH:  C3HHeston (He) 亜系統からHarwell (H) へ移った亜系統

          SR/JrIpcv:  SRthe John Rapp (Jr)亜系統から Institute of Physiology, Czech Academy of Sciences (Ipcv) へ移った亜系統

遺伝的違いが時間と共に蓄積されるので、ラボコードは重ねて表記する。その率rateは、その系統あるいは亜系統を収容し、繁殖している施設での異なる品質統御レベルにある程度依存している。マウス、ラットを分与している機関は、系統情報の中に親系統から離れてからの世代数を記述する必要がある。系統名は、最初に正式名称を与えておけば、以下省略しても構わない。

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3.5. ハイブリッド(交雑

同じ手順で交配した2系統の子孫であるマウス、ラットは遺伝的に同一で、2系統の省略記号を使って大文字で表記し、そのうしろにF1をつける。(ただし、母系統を最初に記述)。

備考: 雌雄せい逆交配のF1は遺伝的に同一とはみなされないし、F1の表記も別になる。

                       D2B6F1        DBA/2母、C57BL6/J 父のF1

                       B6D2F1        父母を逆にした交配のF1

さらに交配を続けると遺伝的にはもはや同一ではない。しかし、その交配にも親系統が分かるような何かしらの表記を与える。

                       D2B6F2              D2B6F1 同士の交配によるF2世代

                       B6(D2AKRF1)     C57BL/6J メスに (DBA/2 x AKR/J)F1オスを戻し交配した。

上記のいずれについても、出版物では最初に正式名称を与えておく必要がある。もし、交雑系統が元の系統と遺伝的に、あるいは、表現型がはっきりと違っている亜系統を使って育成された場合は、それが分かるように表記する。

                       BALB/cBy = CBy, C3H/HeSn = C3Sn.

省略が認められている系統は下記の通り。

             129        129 strains (サブタイプを含む:例 129S7)

             A          A strains

             AK        AKR strains

             B          C57BL

             B6        C57BL/6 strains

             B10       C57BL/10 strains

             BR        C57BR/cd

             C          BALB/c strains

             C3        C3H strains

             CB        CBA

             D1        DBA/1 strains

             D2        DBA/2 strains

             HR        HRS/J

             L          C57L/J

             R3        RIIIS/J

             J          SJL

             SW        SWR

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4. 複数の近交系を基に育れる系統

2つあるいはそれ以上の近交系の交配で作られるマウス、ラットは明確な遺伝背景を持っているが、遺伝的に同一のこともあればそうでないこともある。そういった動物は、交配様式などを明記して適切な表記を行う。

4.1. リコンビナントRecombinant Inbred Strains

リコンビナント近交系Recombinant inbred (RI) は、2系統を基に20代かそれ以上の連続した兄妹交配によって作られる (Bailey 1971, Taylor 1978) 。これらの系統は、2系統の名前の1または2文字の大文字の略記号で表記する。ただし、スペース無でメス系統を先に書き、大文字Xでつなぎ、次にオス系統を書く。

             例       CXBBALB/c C57BL/6Jの交配によるRI

系統数が複数の場合は番号をつける

             例        BXD1, BXD2, BXD3BXDC57BL/6 x DBA/2)のセット

                       HXB1, HXB2, HXB3SHR/OlaIpcvBN–Lx/Cubの交配のHXB RI セット

もし、2番目の系統の略記号が数字で終わる場合は (例:CX8 RI strains)、数字の後に来る亜系統の番号を分けるためにハイフンをつける。

                      CX8–1

リコンビナント近交系は、多因子形質の遺伝子マッピングを目的として交配に使うこともある。そのようなF1s は、recombinant inbred intercrosses (RIX) と呼ばれ、他の近交系との間のF1sと同様に記号として表記する。

                       (BXD1/Ty x AXB19/Pgn)F1 BXD1/Tyメス と AXB19/Pgn オスのF1

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4.2. 混合型近交Mixed Inbred Strains

二つの親系統に由来している(一方は、遺伝子標的ES細胞系)近交系ストックまたは近交系については、二つの系統をセミコロン()で分ける。大文字の略記号で表し、ラボコードと番号は違った研究室で作られる系統を区別するために、また、同じ研究室でも複数作製するような場合に使用する。この表記は、まだ近交系として確立されない「遺伝的混合状態のストック」に対して使われるので、F20以上になるまでは近交系とはみなされるべきではない。

             例     B6;129–Acvr2tm1Zuk             Acvr2 geneのノックアウトを129 ES cell lineを用いて作製し、C57BL/6Jと交配して得られた混合系統

二つ以上の系統で作られるかあるいは未知の遺伝資源に由来する突然変異系統は「複合」近親交配とみなされ、STOCKの後にスペースを設け(ハイフンではない)、突然変異記号または異常染色体をつけて表記するのが適当である。

             例   STOCK Rb(16.17)5Bnr   Robertsonian translocation Rb(16.17)5Bnrをもつ、遺伝的背景が不明な、あるいは、複雑な近交系

そうした突然変異ストックが近交系に達した時には、適切な系統表記にする。もし、その系統がもつ遺伝的突然変異についてすべて大文字のシンボルを使って表記される場合は、短くする。その理由は、系統名の変更は、(強く推奨される)、オプショナルであるからであって、STOCKとして表記されている系統の中には近交系になっているものもあるかもしれない。

             例   JIGR/Dn                      gr (grizzled) ji (jittery)をもつ、混ざった遺伝背景を持つ近交系

突然変異の対立遺伝子または染色体異常が毎世代あるいは1世代おきに変異遺伝子を持つ動物をF1雑種へ交配することによって維持されている場合、そのストックはF1であるけれどもF1 をうしろにつけないで、適切な対立遺伝子または染色体異常の記号をつけて表記する。

             例    B6C3Fe a/a–Dh        Dh (dominant hemimelia) が毎世代(B6C3Fe a/aF1へ交配することによって維持されている。ストックそれ自身はF1ではない。

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4.3. リコンビナントコンジェニック系Recombinant Congenic Strains

リコンビナントコンジェニック(RC)系統は、2つの近交系の交配と、それに続けて一方の親系統(レシピエント)への数回(通常2回)の戻し交配を行って、さらに、いかなるマーカーなどの選択もすることなしで近親交配を行って育成される(Demant and Hart, 1986) 。そうした近交系は、ドナーのホモ型断片がレシピエント系統ゲノムをバックグラウンドに散在している(ドナー系統のゲノムの量はバッククロスの回数に依存していて、例えば2回のバッククロスであれば平均12.5%である)。 RC系統は、理論上の近交係数が近交系のものと同等になれば、十分に近交系としてみなされるべきである。1回のバッククロッシング世代は兄妹交配の2世代に相当すると考えられる。このように、2回のバッククロス(N3, equivalent to F6)で育成された系統をさらに14世代兄妹交配を行うと十分に近交系とみなされる。 RC系統は、2系統の略記号(大文字)で表記するが、レシピエント系統を先に記述し、小文字のcをその後に、そして、ドナー系統を記述する。

                       CcS            BALB/c をレシピエントとして、STSをドナーとして作製された。

RC系統がいくつかある場合、連番をつけて表す。

                       CcS1, CcS2, CcS3 etc.

2番目の系統の略が数字で終わる場合(例 129P2, 連番と区別するために、ハイフンを使う。

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4.4. アドバンストインタークロスライAdvanced Intercross Lines

Advanced intercross lines (AIL) は、2系統間のF2世代を作ることによって育成される。ただし、その後に続く各世代では兄妹交配を避けながらインタークロッシングを行う (Darvasi and Soller, 1995)。この系統の目的は連鎖している遺伝子間の組換えの確率を上げるためである。

シンボルは、このラインを育成した研究室のラボコードを含め、続けてコロン()を表記し、さらに、コンマで区切った2種類の近交系の略記号を続ける。さらに、ハイフンをつけ、世代数(G3, G4, etc)を記述する。

             例        Pri:B6,D2–G#      C57BL/6 DBA/2を使って育成したAILラインのG#世代。

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5. コアイソジェニック、コンェニックおよび分離型近交系Coisogenic, Congenic, and Segregating Inbred Strains

近交系がゲノムの小部分だけで違うようにする方法としていくつかある。

5.1. コアイソジェニック系統Coisogenic Strains

この系統は、基の系統に起こった突然変異遺伝子座だけで違う。ES細胞の標的突然変異を含む系統は、作製に使った同じ近交系の亜系統へ交配され、維持され場合はコアイソジェニックとみなしてよい。しかし、ゲノムのどこかで突然変異が起こっている可能性を無視できないことを考慮する。同じように、ある近交系に誘導した化学あるいは放射線による突然変異系統もコアイソジェニックと考える。ただし、その突然変異以外に別の変化もあろう。コアイソジェニック系統は、親系統に定期的に戻し交配をしないと遺伝的浮動により、時間と共に遺伝的変化がゲノム中に蓄積していくことが考えられる。コアイソジェニック系統は、適切に亜系統シンボルを使い、違いのある遺伝子(イタリック表記)をそれに続けてハイフンで結んで系統表示法に従って表される。

                       129S7/SvEvBrd–Fyntm1Sor

                                                   Fyn 遺伝子の標的変異がAB1 ES細胞(129S7/SvEvBrd)由来で作製された。キメラ動物が129S7/SvEvBrdへ交配され、このコアイソジェニック系統で遺伝子が保存されている。

                       C3H/HeJ–md2J   C3H/HeJ で起こったmahoganoid 2J 突然変異

 

ケースによっては、ヘテロ型で遺伝子が保存されることもある。系統表記は育種方法を反映していなこともあるし、そのマウスあるいはラットの目的とする遺伝子の遺伝子型を表していないこともある。

             例     C57BL/6J–cph       

この先天性水腎症はC57BL/6Jに起こった。コアイソジェニックではあるが、 ホモ型個体は一般に幼若で致死。+/cph x +/cph.(ヘテロ型同士の交配)で維持される。

コアイソジェニック系統で突然変異が起こってからの近交世代数を示す場合は、突然変異が起こってからの世代数をそれ以前の世代数の後ろに付け加えて表す。

                   F110 + F23             

                                ある近交系のF110の時に突然変異が起こり、その後兄妹交配を23代続けている。

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5.2. コンジェニッCongenic Strains

コンジェニック系統は、ある近交系(レシピエントすなわち遺伝的背景となる)へドナー系統からある特殊なマーカーを選択しながら繰り返し戻し交配を行って育成される (Snell 1978, Flaherty 1981) 。組織適合抗原遺伝子座で違っていて、それ故にお互いの移植片に対して抵抗性があることからコンジェニックレジスタントラインと呼ばれる。

この方法で育成された系統はバックグラウンド系統へ少なくとも10回戻し交配が行われた場合、コンジェニック系統とみなされる。なお、F1世代は1世代と数える。コンジェニックになった時点で、その系統に導入されたドナーゲノムであって、連鎖していないゲノムが残っている量は、1%以下であろう(選択した遺伝子あるいはマーカーに連鎖しているドナーのゲノム量は減少するのが遅く、おおよそ、200/Nである。ただし、Nは、戻し交配の世代数でN>5)(Flaherty 1981;Silver 1995)。

マーカーを補助として使う交配またはマーカーを補助として使う選択交配は、スピードコンジェニックとして知られており、5世代という少ない世代で通常の10回の戻し交配に匹敵するコンジェニック系統を作ることが可能である (Markel et al., 1997; Wakeland et al., 1997)。適切なマーカー選択が使われるという条件で、もし、選択された遺伝子座または染色体部位に連鎖していないドナー系統の貢献が0.01よりも少ない場合はコンジェニック系統と呼ばれる。原則として、最初の出版の中ではスピードコンジェニック系統の表記として、その系統のコンジェニックの度合いを定義するために使われたマーカーの数とそれらの間のスペース(距離)が述べられるべきである。スピードコンジェニックは完全なマーカー分析に依存しているし、実験プロトコールによって多少変化することから、近交系としての状態を理解する場合注意が必要である。

コンジェニック系統は、3つの部分から構成される記号で表記される。レシピエント系統の完全な、また、省略した記号はドナー系統(対立遺伝子または突然変異遺伝子のオリジンであって、そのコンジェニック系統を構成している直接の資源であるかもしれないし、そうでないかもしれない)の省略記号とピリオドで分ける。 (ドナーが近交系でないか、複雑な場合には、コンジェニックをあらわすために記号としてCgを使う。

ドナー系統の記号またはCgの使用は、コンジェニック系統とコアイソジェニック系統と区別するために必須である。系統名とドナー系統から来た異なる対立遺伝子の記号(イタリック表記)を分けるためにハイフンをつける。

                       B6.AK–H2k         AKR/JH2kC57BL/6に導入

                       LEW.BN–RT1n       BNRT1nLEWに導入

                       DA.F344–Cia5       F344系統のCia5 QTLDA系統に導入

もし、同じレシピエントバックグラウンドとドナー系統に由来し、同じく異なる対立遺伝子を持つようなラインがいくつかある場合、個々のラインは系統名の後にスラッシュをつけ、続けて連番とラボコードを表記する。

もし、異なる対立遺伝子が第3の系統を経由した場合、その系統をカッコ内に記入する。

             例        J.129S2(B6)–Cd8atm1Mak/2DcrおよびJ.129S2(B6)–Cd8atm1Mak/3Dcr

                                             同じ対立遺伝子を導入した、異なって育成された同じドナーとレシピエントをもつ2つのコンジェニック系統

                       NOD.129S7(B6)–Rag1tm1Mom

この例と上の例では、異なる対立遺伝子は第3の系統,C57BL6 (B6)を経由している。

染色体の一部がいくつかの遺伝子あるいはDNA遺伝子座を調べながら導入された場合、その染色体部分はもっとも近いマーカーならびにもっとも遠いマーカーを掲げることによって記号で表すことができる。なお、括弧の中の染色体部分のマーカーをハイフンでつなぐ。

             例      B6.Cg–(D4Mit25–D4Mit80)/Lt

                                       アウトブレッドか混合系統の第4染色体の(D4Mit25–D4Mit80)C57BL/6J へ導入したコンジェニック系統(アウトブレッドか混合系統のためにCgが使われる。

                       B6.CB–(D4Mit25–D4Mit80)/Lt

                                       CBA/J由来の染色体部分(カッコ内)をB6に導入したコンジェニック系統

備考:染色体断片を示すマーカーとして、検査した最も遠いものともっとも近いものを記述するだけでよい。これは、もっと近いあるいは遠い未検査マーカーがないということではない。もし、同じラボあるいは異なるラボで同じ染色体部分を含み、方法を変えても区別が付かない数ラインが作られた場合は、スラッシュ、連番およびラボコードをつけて区別する。

必要に応じて、戻し交配世代数をNで、数字を括弧に入れる。さらに複雑な交配システムを使う必要がある場合、世代はNEN equivalents)で表し、 コンジェニック系統としてみなされるにはNE10が要求される。例えば、近交系のバックグラウンドにある劣性遺伝子を導入する場合、10回の戻し交配とその後のホモ型個体を得るためのインタークロッシングを行った後に、その系統はNE10とみなされる。あるコンジェニック系統が戻し交配の後に兄妹交配で維持されている場合、兄妹交配世代数は戻し交配世代数の後につけて表す(例 N10F6:戻し交配10回の後に兄妹交配6世代を行った。例 NE12F17:戻し交配12回に匹敵する複雑な交配を行い、その後兄妹交配を17回行った。) 。スピードコンジェニックを作った場合、N10よりも小さいであろう。にもかかわらず、Nのうしろに実数を括弧の中に入れて表記すること、また、育種の方法と使われたマーカーの詳細について出版物あるいはデータベースなどに詳細に書くべきである。

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5.3. コンソミッConsomic Strains

コンソミック系統(染色体置換系統とも呼ばれる Nadeau et al., 2000)は、ある近交系にある染色体一本を丸ごとバックスロスによって導入して育成される。コンジェニック系統と同様、少なくとも10回の戻し交配が必要で、F1世代を1世代と数える。常染色体については、ドナーの染色体とレシピエントの染色体に組換えがないことを確認するために仔世代について遺伝子型判定をする必要がある。コンソミック系統の表記は、HOST STRAIN–CHROMOSOMEDONOR STRAINとする。

                     SHR–YBN

                                       この系統では、BNY染色体がSHRに戻し交配で導入

                       C56BL/6J–19SPR

                                       M.spretus Chromosome 19C57BL/6Jに戻し交配で導入

コンソミック系統はコンセプトと育成に関してコンジェニック系統と似ている。コンソミックの命名規約は、ホスト系統名は省略しないで、ピリオドなしでドナー系統を続け、起源となった系統は大文字で表す。全文字を大文字で表すことと染色体の文字と番号をイタリックにしないことは、対立遺伝子記号と染色体識別体を区別するためのものである。

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5.4. 分離型近Segregating Inbred Strains

分離型近交系では、目的の遺伝子または突然変異がヘテロ型の状態で維持されている。それらは近親交配で育成され(通常は兄妹交配)、毎世代ヘテロ型が選ばれる。分離している遺伝子座は部分的にその系統の標準的な遺伝子型であるため、近交系と同じ表記がなされる。近交系の遺伝子型の詳細は出版物およびデータベースで入手可能である。

                       129P3/J

                                このマウス系統は、tyrosinase alleles albino (Tyrc) chinchilla (Tyrc–ch)が分離している。

                       WB

                                このマウス系統は、kit oncogene (KitW)の優性白斑を分離している。

カップリングまたはリパルジョンの状態で連鎖する対立遺伝子を持つ系統は、それら連鎖した遺伝子の状態が分かるように表記されるべきである。

             例      B6.Cg–m Leprdb/+ + 

                                  この近交系では、m Leprdb が一つの染色体上に、野生型は別の染色体にあるいわゆるカップリングの状態にある。

                       B6.Cg–m +/+ Leprdb

                                       この近交系では、m Leprdbが別の相同染色体上にある、いわゆるリパルジョンの状態にあり、バランス型系統と呼ばれる。

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5.5. コンプラスティッConplastic Strains

コンプラスティック系統は、交配によって一つの系統の核ゲノムを別の系統の細胞質へおいたものである。表記は NUCLEAR GENOME–mtCYTOPLASMIC GENOME. である。

             例      C57BL/6J–mtBALB/c

核ゲノムがC57BL/6J であり、細胞質(ミトコンドリア)ゲノムがBALB/cである。

C57BL/6JオスマウスとBALB/cメスを交配することにより育成された系統で、仔のメスを毎世代C57BL/6Jオスへ戻し交配することにより育成される。コンジェニック系統と比較して、少なくとも10世代の戻し交配が必要で、F1世代を1世代と数える。

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6

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