「遺伝子組換え生物等の使用」について


2004年2月19日付けで「組換えDNA実験指針」が法制化さ れ、違反した時は、場合によっては1年以内の懲役若しくは100万円以内の罰金が科されることになりました。

関連情報は文科省より 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」のホームページ
http://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/anzen.html#kumikae

「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の解説資料(平成16年3月8日版)
http://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/carta_expla.html に掲載されています。

また、規制法についてまとめた 熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設のHPが公開されています。
http://gtc.egtc.jp/view/law/index

以下は、これらの解説資料の要点を抜粋まとめたものです。

1) LMO の使用に関する拡散防止措置の区分

規制法において、LMO(( Living Modified Organism )の使用は、LMOの環境中への拡散を防止しないで行う使用等「第一種使用等」とLMOの環境中への拡散を防止しつつ行う使用等を「第二種使用等」に分類されます。これまで組換えDNA実験として P1、P2実験室等で行われてきた研究はすべて「第二種使用等」になります。規制法上は、「分化能を有する又は分化した細胞等 ( 個体及び配偶子を除く。 ) であって、自然条件において個体に成育しないもの」は生物ではないとされているので、動物培養細胞、組織に対する実験は含まれないことになりました。ただし、培養細胞にウイルスベクターを感染させる実験の場合、動物細胞は生物(LMO)として認められませんが、ウイルスの方が生物と認定され、ウイルスを「宿主」とした微生物使用実験として申請しなければなりません。

実験がどの拡散防止措置の対象となるのかを決める際には、組換え DNA 実験安全委員会に提出された実験内容が、「第二種使用等大臣確認実験」に相当すると判断された場合、大学長名で文部科学大臣宛てに「第二種使用等拡散防止措置確認申請書」を提出することになります。これまでの指針における大臣確認実験とほぼ同じ位置付けです。しかし、トランスジェニック実験に関しては、緩和された傾向があります。例えば、動物(寄生虫を除く)実験分類はクラス1となったので、これまでの実験指針でP2レベルだった遺伝子改変マウスのほとんどがP1Aレベルになります。

例)  宿主マウス【クラス1】の胚及び個体 (胚をマウスの仮腹に入れて作成)
ベクター(使用しない)供与核酸マウス白血病ウイルス【クラス2】の病原性等に関係しない遺伝子→P1Aレベル

供与核酸が同定済核酸(定義は後述)であり、哺乳動物等に対する病原性および伝達性に関係しないことが分かっている場合は、宿主の実験分類に従って拡散防止措置を決定します。従ってトランスジェニックダカの大臣確認実験に相当するウィルスを使用しないほとんどのケースが機関実験P1Aレベルになる訳です。

「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の解説資料HPの「遺伝子組換え実験に係る拡散防止措置の区分及び内容の一覧表」
「遺伝子組換え実験に当たって執るべき拡散防止措置の区分の早見表」
に分かりやすく表記されてます。

「特定飼育区画」という区分が制定されました。供与核酸が同定済核酸であり、病原性等に関係しない等の要件を満たす組換え動物の使用等は特定飼育区画・特定網室の拡散防止措置を執ることができるとあります。

(二種省令第5条第3号・第4号ホ)
特定飼育区画・特定網室の拡散防止措置を執ることができる機関実験(文部科学大臣の確認を受ける必要のない実験)について
動物使用実験・植物等使用実験であって、以下の要件(二種省令第5条第3号又は第4号のホの (1)-(4)の要件)を全て満たす組換え動植物は、特定飼育区画・特定網室で行うことが可能。

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具体的な要件

  • 供与核酸が同定済核酸である
  • 供与核酸が病原性や伝達性に関与しない
  • 供与核酸が宿主の染色体に組み込まれている
  • 供与核酸が転移因子を含まない
  • 組換え動物の逃亡に関係する運動能力(跳躍力等)又は組換え植物の花粉等の飛散性が非組換え体と比較して増大していない
  • 組換え微生物等(形質転換に用いたウイルスや細菌など)を保有していない
以下の具体例があげられており、トランスジェニックメダカを特定飼育区画で飼育管理することも可能だそうです。

具体例1

ある植物の脂肪酸合成に関わる遺伝子(同定済核酸)を脂肪組織特異的に発現するプロモーターにつなぎ、ブタの卵子に導入する。これによって作製した組換え動物について、導入遺伝子が動物ゲノム中に安定して保持されていることを確認した上で特定飼育区画で飼育管理する実験。

具体例2

植物Aの色素合成に関わる遺伝子(同定済核酸、花粉等の飛散性には関係しない)を根で特異的に発現するプロモーターにつなぎ、アグロバクテリウムを介して植物Bに導入する。これによって作製した組換え体について、導入遺伝子が植物ゲノム中に保持されていること及びアグロバクテリウムの残存性がないことを確認した上で特定網室で栽培管理する実験。また、上記のような後代において花粉等の飛散性が増大しないと推定される組換え植物どうしを特定網室で交配させる実験。

同定済核酸の定義は、次のイ)からハ)までのいずれかに掲げるものとされています。

イ ) 遺伝子の塩基配列に基づき、当該供与核酸又は蛋白質その他の当該供与核酸からの生成物の機能が科学的知見に照らし推定されるもの
ロ ) 当該供与核酸が移入される宿主と同一の分類学上の種に属する生物の核酸又は自然条件において当該宿主の属する分類学上の種との間で核酸を交換する種に属する生物の核酸(当該宿主がウイルス又はウイロイドである場合を除く) 。
ハ ) 自然条件において当該供与核酸が移入される宿主との間で核酸を交換するウイルス又はウイロイドの核酸(当該宿主がウイルス又はウイロイドである場合に限る) 。

これまでの指針で「同定済核酸」ではなかったが、今後「同定済核酸」となるものの具体例

  • 野生イネAの断片を選抜マーカー遺伝子とともにこれと交配可能な栽培イネBに導入する場合、野生イネAのDNA断片の塩基配列が決定されておらず、かつDNA断片上の遺伝子の位置、数、機能が明らかでなくとも同定済核酸として取り扱う。

今後も引き続き未同定核酸として扱われるものの具体例

  • ゲノム断片上の遺伝子に由来する産物の機能の全てが明らかでない場合
  • ゲノムあるいはのcDNAライブラリを作成する実験における供与核酸(塩基配列が全て決定されている生物であって、遺伝子が同定され、機能が科学的に推定されるものは除く) 。
  • 土壌中の微生物のゲノム断片を無作為にクローニングする実験における供与核酸。

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2)保管及び運搬

LMOの保管・運搬時において執るべき拡散防止措置は、以下のように制定されています。

(1)保管(二種省令第6条)

  • 遺伝子組換え生物等が漏出、逃亡その他拡散しない構造の容器に入れる。
  • 容器の外側の見やすい箇所に、遺伝子組換え生物等である旨を表示する。
  • 容器は所定の場所に保管する。
  • 容器の保管場所が冷蔵庫等の設備である場合には、設備の見やすい箇所に、遺伝子組換え生物等を保管している旨を表示する。

(2)運搬(二種省令第7条)

  • 遺伝子組換え生物等が漏出、逃亡その他拡散しない構造の容器に入れる。
  • 実験に当たって執るべき拡散防止措置が以下のものについては、事故等により容器が破損しても遺伝子組換え生物等が漏出、逃亡その他拡散しないよう、二重に容器に入れる。
    i )P3(A・P)レベル・LS2レベル以上のもの
    ii )大臣確認前であるために定められていないもの
  • 最も外側の容器の見やすい箇所に、取扱いに注意を要する旨を表示する。

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3)情報提供に関する措置

LMOを第二種使用等で譲渡、提供、又は委託して使用させようとする場合、下記内容の情報提供が必要です。さらに検証可能な様にきちんと記録を残しておくことが必要です。

  • LMOの第二種使用等をしている旨
  • 宿主等の名称及び組換え核酸の名称
  • 氏名及び住所(法人にあっては、その名称並びに担当責任者の氏名及び連絡先)

なお、同じ相手に同じLMOを2回以上にわたって譲渡する場合(相手が承知していることが必要)、最初の譲渡時のみ情報提供が必要です。また、情報提供の方法は、 (i) 文書の交付、 (ii) LMOの容器等への表示、 (iii) FAX, (iv) 電子メールのいずれかの方法によるとされています。どういう方法であれ、後で検証可能な状況にしておくことが必要です。

4)輸出に関する注意

LMOを輸出する際には、LMO又はその包装、容器、若しくは送り状に、施行規則に定める様式(「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の解説資料 HPの「輸出に関する措置」に必要項目が書いてあります)により表示しなければなりません。「カルタヘナ議定書」は締約国間のLMOの移動に関する取り決めであり、締約国以外の国(アメリカを含む)に輸出する際にはこの法規制は適用されません。また、アメリカからLMOを輸入する場合は、上記の表示を行う義務がかかっていないので、国内でLMOを使用する規制法の対象として必要とされる情報が入手できない場合があるので注意して下さい。

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5)健康管理、安全委員会等の体制整備、記録保管等(解説資料より)

これらは、法規制ではありませんが、文科省より各機関での対応が求められています。

(1)健康管理等について

  • 「基本的事項」第2の1において、使用者等がその行為を適正に行うための配慮事項として、人の健康の保護を図ることを目的とした法令等関連法令を遵守する旨が規定されている。このため、実験従事者の健康管理等を図るため、労働安全衛生法、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(実験を行う区域が放射線管理区域となる場合に限る)等関連法令の遵守をお願いする。

(2)安全委員会等の体制整備及び機関での手続について

  • 「基本的事項」第2の2において、使用者等がその行為を適正に行うための配慮事項として、遺伝子組換え生物等の特性及び使用等の態様に応じ、以下のとおり、体制整備に努める旨が規定されている。
    i )安全委員会や安全主任者を設置し、あらかじめ遺伝子組換え生物等の安全な取扱い(執る拡散防止措置の妥当性(レベルダウンの妥当性を含む、実験従事者の教育訓練、事故時の対応方策等)について検討すること
    ii )取扱い経験者(実験責任者)の配置
    iii )取扱い者に対する教育訓練
    iv )事故時の措置が的確に執られるための事故時の連絡体制
  • 法令に定める拡散防止措置事故時の対応等を適切かつ安全に実施するためには専門的な知識及び技術を基に広い視野に立った判断が必要となるため、遺伝子組換え実験等の法令に基づく実施に責任を有する当該実験等の実施機関の長においては、必要な体制整備を図ることが重要。
  • 安全委員会及び安全主任者の設置、実験従事者に対する教育訓練等指針において求められてきた点については、今後とも同様の措置を執ることが望ましく、遺伝子組換え実験等の内容を考慮の上、機関内において必要な体制整備のあり方について検討をお願いする。なお「基本的事項」では、機関承認実験と機関届出実験のそれぞれの具体的な範囲を示す規定や具体的手続、安全委員会等の具体的な任務等についての詳細が規定されていないが、この点も含めて、検討していただきたい。
  • また、各機関において決定された機関内の体制については、例えば、内規の制定等により、機関内の関係者への周知徹底をお願いする。

(3)記録保管について

  • 「基本的事項」の第2の4において、使用者等がその行為を適正に行うための配慮事項として、使用等の態様、安全委員会等における検討結果、譲渡等に際して提供した又は提供を受けた情報等を記録し保管するよう努める旨が規定されている。
    このため、実験の適正な実施等に必要な範囲での記録の保管をお願いする。

以上

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